プエルトモンで食えるもん
「もう5年になりますね。」
久しぶりに日本語を聞いた。サンティアゴの宿でのこと。台所で食事の支度をしていた私に一人の男性が声を掛けてきた。簡単に自己紹介をした。今月、南米を巡っていることを紹介する。するとこの男性は冒頭のような話をした。アラスカから自転車でアメリカ大陸を5年旅してきたという。このサンティアゴが最終地点。リマの時も旅を終える日本人に会った。今回の男性、旅のスケールが違う。たかがひと月の自分が甘ちゃんに思えた。
そこからの2日間は食堂に出かけたり、民芸品市場に行ったりした。この男性、さらにその友人も交えていろいろ語った。「チリならでは」というものが少ない。という考えで一致した。先住民の生活や手工芸がほとんど見当たらない。大部分はヨーロッパ系の人と彼らが持ち込んだ品々だった。それがチリらしさなのか?使われているスペイン語の響きもどことなく違う気がする。
この先に旅路を考えた。私にとってサンティアゴが第一の目的地だった。案外あっさりと到着してしまった。約2週間ある旅。メキシコに戻る飛行機はペルーのリマから飛ぶ。もうペルーに戻っても良いかもしれない。物価も安いし雰囲気も私好みだ。ただせっかくなので行ったことのないところに行きたい。
ボリビア。高山病に怯え運動ができない。
パラグアイ、ブラジル。遠い。
チリを南下!そうやんか!やはり行けるところまで南下しよう!南へ行けば行くほど何もなくなっていくという話だが…
そしてサンティアゴ2泊目。スカイスキャナーと格闘。複数のルートを考える。目指すはプンタアレナス。南極近く。作家の椎名誠氏の本に書かれた地だ。パタゴニアだ。
サンティアゴから直接行くのもいい。だがもう一つくらい町をみてみよう。プエルトモンという名前が面白そうだ。港町らしい。
サンティアゴからプエルトモンはバス。プエルトモンからプンタアレナスは飛行機という手段をとろう!7月、南半球は真冬だ!さあ天然冷蔵庫を目指す旅!待ってておくれシーナさん!
サンティアゴ発プエルトモン行きのバス。夕方5時半に出陣だ。翌朝8時ごろプエルトモンに着くらしい。はじめはガラガラだったバス。しかし夜が更け、通る町は小さくなるのに乗る人はいるのだ。最終的には満席だった。
目が覚めた。
あたりはまだ暗い。時計を見ると朝7時半。プエルトモンに着こうとしていた。夜明けの遅さが緯度の高さを意識させる。
その日の晩に泊まる宿に荷物を置きに行った。早くに荷物を置きに行ったからか、予約サイトよりかなり高い料金を請求された。手数料がうんぬんかんぬんと管理人は言う。もう他に当たる気力もない。私スペイン語でのやり取りもまだ未熟だ。もうええわ。払えない金額でもなかったので涙をのんで受け入れた。
薄っぺらい食パン2枚と卵焼きが出てきた。朝飯だという。飲み屋の突き出しか!腹の足しにもならんわ!こっちゃ毎朝米1合半食うてます!とはいえ食べな損。30秒で片づけた。
町の中心まで走った。
バスターミナル付近の公園で懸垂をしている兄ちゃんがいた。負けじと私も参戦。私のフォームに改善点があるらしい。彼が助言してくれた。空手がこの町では人気だとか。初めて日本人に会ったとも言っていた。
この町の観光名所として魚市場があるらしい。そういえばサンティアゴで仲良くなった日本人男性も「ウニですよ」と言っていた。行こうウニ食いに!
この町全体が静かだ。宿は極めて静かな場所にある。宿泊費の件はいろいろあったが、主人は良い人。多くの客はこれに満足するのだろう。私も居心地は良かった。ただガヤガヤ系のバックパッカー宿と違い、早朝に勝手にトレーニングに駆け出すわけにはいかない。何でも翌朝は8時に起きるのだという。普段の私ならジム仕事を終え早すぎる昼飯で筋肉に栄養を与えている時間だ。ただトラブルは起こしたくない。一晩だけの付き合いだ。朝には読書したり、息の根を殺した筋トレをしたりしよう。
その夜は主人の友人とも話しながらダラダラと過ごした。この主人もベネズエラ人だという。今の南米各国にはベネズエラ人がいる。またしても味わった現実だった。
もう一泊この町にしてからパタゴニア・プンタアレナスに旅立つ。ただいろいろ気を遣う宿にはもう一泊しようとは思わなかった。多分いい宿なのだろう。私には合わなかったが…多分いい宿です。
プエルトモン2日目は雨だった。寒いし少し鼻風邪気味だ。チロエ島という島が有名らしいが行く気にならなかった。南半球の夏。年末年始に来るといい場所なのだろう。
泊まる宿も決めずにウロウロしています。バスターミナルか空港で夜を明かすか…翌朝は8時の飛行機だ!いざパタゴニア!