世界の中心で腹が痛む
反省とハライタを抱えた私。次の宿はワンルームの一室を貸し出す方式だった。正面玄関と個室の鍵を渡された。台所も使っていいという。ドミトリー式のガヤガヤに紛れ、明け方まで酔う人たちの横、早朝の走り込みと筋トレをする。そんな宿もいい。しかし、今回は少し一人になって、頭を冷やせという事なのだろう。
ちなみにこの夜は隣の個室の男女が夜更けまでレゲトン音楽をガンガン流す。奇声を発するという状況だった。昨日の宿の管理人の気持ちがわかった。罰が当たったと思った。私に文句を言う資格は無いように思った。
この日の昼は、赤道上にあるという。「Mitad del mundo」なる世界の中心に行くこととした。ここはバスを乗り継ぎ、旧市街から1時間くらいのところにある。2本目のバスに乗った。市街地からどんどんと離れ、荒涼とした光景が続く。腹痛なせいか、心の苦痛のせいかウトウトしてしまった。気づけば乗客は誰もいない。
「Mitad del mundoはどこでっか?」
と運転手に尋ねた。
「そんなもん通り過ぎたわ。折り返しのバスに乗りいな。」
と返されてしまった。
ほどなくして、折り返すバスが到着。バスは田舎町を抜けて走る。大きめの公園が見えた。観光バスも何台か停まっている。ここに違いない。
入場料5ドルを払い、赤道へ。ちなみにここ、本当の赤道からズレた位置にあるという。事実を知っているのか否か。そんなことどうでもいいのか。欧米人たちが「ワーオ!グレイト!」などと言いながら記念撮影をしていた。
赤道上?に建つ塔の内部は博物館になっていた。エクアドルの地理・歴史や赤道上の物理現象などが紹介されていた。日差しは赤道直下のまさにそれ。かなり疲労してしまった。
翌朝、次の目的地、南部のグアヤキルに発つことにした。先の旅人たちは夜行バスを選択する場合が多かったようだ。しかし腹痛を抱えた身、夜は宿で寝たほうがいいだろう。そう考えて昼の便にした。
朝10時過ぎに出たキトを出たバス。トイレ付きで安心した。バスの通路では誰かがノンストップで喋り続けている。ほんまにようこんだけ喋れるなというくらい止まらない。車掌が注意事項の説明をしているのかと思った。違った。水の浄化剤の胡散臭いセールスだった。うるさいうるさいと思っていたら私の腹もうるさくなってきた。トイレを使うべく車掌に開錠を申し出る。
やっとの思いですっきりしたのもつかの間。いきなり扉を開けられ激怒された。
「このチーノが!クソ野郎!!クソなら外やろう!」と言っている。ようだ。
なんでも小さい方専用のトイレだという。そんなん知らんわ…と言いたくなったが、郷に入りては郷に従えなのか…もうどうしようもなかった。途中で降ろされるのも覚悟した。
キトからグアヤキルは10時間ほどの旅だった。
途中、隣に座った男性と話し込んだ。周囲に広がる農耕地帯を見ながら、バナナ、米、トウモロコシなどこの国の農業について説明してくれる。そして自分たちの身の上話もしながら打ち解けてきた。
そして腹が悲鳴の鐘を打ち出した。まただ。この男性に車掌を説得してもらい、途中のトイレ休憩を2度取ってもらった。ガソリンスタンドと途中のバスターミナルであった。例の車掌も「早よしろや!」などと言いながら一緒に走ってくれたし、もはや笑っていた。車内のトイレでは勘弁やでということ。それだけだったらしい。
バスに揺られ、腹は揺れ、バスはグアヤキルに着いた。夜の8時過ぎだった。
宿はターミナルから30分くらい歩いたところ。管理人は私を理解してくれる人で朝から台所を使う事など許可してくれた。その瞬間、1泊の予定を2泊に引き伸ばした。さらに2泊目のチェックアウト後も待合室でのんびりしていていいという。最高だ。
ここで腹を回復させ、次の目的地に向かう事にした。さあ、ペルーのリマだ。