テキサスのクリスマス
さて、本場アメリカ・ヒューストンのクリスマスは如何なるものか。
12月25日、街に繰り出すことにした。人、人、人が…いない。まるで元日の大阪のようだった。
“Let it snow. Let it snow. Let it snow….”
温暖なテキサスの街にそんなクリスマスソングが流れる。なんとなく寂しい気持ちになる。
「一ドルくれへんか?一ドルでええねん。」
ごくごくたまにすれ違う人はそんな事を言ってくる。ひょっとしたらホームレスなのかもしれない。
もちろん、ほとんどの店は閉店状態。せっかくアメリカに来たのだから…とハンバーガー店を探す。「ほぼ」年中無休のハンバーガー店ですら、この日は例外。閉まっている店が大多数だった。結局、宿近くの店に入る。店の周りには酒瓶をラッパ飲みする男が寝そべっている。店内には、子どもだけで時間をつぶしているのか、ほっとらかしにされている少年たちがいる。机上はゴミでぐちゃぐちゃ。ひょっとしたら…店員さんの子ども達かもしれないが…
他にも、様々な外見をし、様々な事情を抱えていそうな人たちがたくさんいた。12月25日のハンバーガー店とはこういう状態なのだ。
なんちゃらバーガーセットを注文。9ドル位した、と思う。意外にハンバーガーは高い。
少し時間をつぶそうかと思った。ただ、店の内外で奇声を上げる酒飲み男などがいる。さっさと退散するのが吉だ。飲み放題の炭酸飲料を適当におかわりし、宿に戻った。
昼過ぎ。宿も眠っているような感じだ。クリスマスソングを流すFMだけが響く。ドミトリーに戻ると、日本語のTシャツを着た若者がいた。
「日本人の方ですか?」
「はい…」
彼はアメリカ大陸を北から旅しているのだという。男一人でニューヨークにいても寂しかったこと。クリスマスのアメリカの静けさのこと。物価の高いこと。宿の雰囲気は良いこと。昨夜の夕食を私が食べまくっていたこと…
そして近々、彼もメキシコに来るという。少し押し付けがましかったが、連絡先を渡した。大半の場合は、その後の連絡など無いのだ。でも、旅で出会った人とはそういうやり取りをするのが流儀だと思う。
その25日の晩も夕食が出た。
「少し小規模だけどね」
宿の従業員がはにかみながらそう言う。とんでもない。昨日のご馳走の残り、加えて新しい料理も数点。また適当に取って食べていく。前日に比べ少し静かな夜。子どもの頃の、我が家の元日の夜に似ていた。大晦日は賑やか。元日は「ちょっとしんどいな~」といいながらお節料理をつまむ。そんな感じだ。
傍らでウガリを食していたアフリカ系の二人に声を掛けてみる。ケニア出身だという。そんな彼らとビリヤードをしてのんびり過ごした。途中からはアメリカ人も加わり、楽しい夜が過ごせた。
いい宿だ。
一泊30ドル。
この季節にヒューストンを旅行する際の最低価格。これを支払う人は良識のある人なのか。
数々の安宿に泊まってきた。一泊10ドル以下のようなところでは、台所やトイレはぐちゃぐちゃ。夜通し欧米人がどんちゃん騒ぎする。という例が多かった。貧乏旅行をしたい欧米人はアジアや中南米に流れるのか。少しゆっくりしたい人がアメリカ旅行を楽しむのか。
確かに物価の高いアメリカ。私も3,4日の旅行くらいが限界だと思う。そんなことを考えながら眠りについた。
翌朝、26日、チェックアウト。受付の兄ちゃんが「メリークリスマス」と言って送り出してくれた。日本では12月26日以降はまず聞かれないセリフだ。クリスマスの余韻をしばらく楽しむ。それもなかなかいい気がした。日本でも小正月あたりまで「明けましておめでとう」というような感じだろうか。
街には少し活気が戻っていた。ビジネスマンもいる。昼食はビルの地下のフードコートに入った。なかやまきんに君さんがおススメされていたハンバーガーを探す。
「Chick-fil-A」というチェーン店。チキンバーガーで有名らしい。この会社のライバルもチキンバーガーを売り出し、アメリカでは騒ぎになっていたらしい。かなりの人気なのだとか。
「注文は?」
目が合うや否や、店員のお姉ちゃんのスマイル炸裂。忙しいビジネスマンの列。適当に何とかセットを頼みます。
感想は…まあハンバーガーやね。これで騒動になるアメリカ人のハンバーガー愛…恐るべし。
その後は適当に街を散策。土産を求めてスーパーを探す。
ありました。繁華街の外れに一軒。デパ地下のような印象な店。「テキサス」「ヒューストン」と書かれているものを探す。チョコレートがあったのでそれにした。ここの総菜コーナーはさすが移民大国。イタリア系やコーカサス系などの本格的な総菜屋が量り売りをしてくれる。喫食スペースでは各国の言葉が飛び交う。人種のるつぼアメリカだ。英語からいきなりスペイン語にスイッチする「スパングリッシュ」も結構聞こえてくる。
イタリア風の総菜パンを食べた。喫食スペースの奥から、楽しそうな音が聞こえてくる。そこはバーになっていた。せっかくのアメリカ、ビールの一杯でも飲んで帰ろう!
やはり店員さんのノリも良く、「もう一杯いかが?」とすすめてくる。ホンマはもっと飲みたかったが、飛行機に乗り遅れるわけにはいかない。
「ごめん!今晩の飛行機で帰るねん。」と言って御愛想をおねがいする。
「Safe fright!!」
そういって、バーテンと隣で飲んでいた兄ちゃんが送り出してくれた。
普段住むメキシコももちろん良い。そして隣国のアメリカもやはり良かった。以前ロサンゼルスでも感じた「おおらかなアメリカ」がここにもあった。
またいつか訪れたい。行ける日が来てほしい…と思いながら、季節外れの旅行記を書いている。
流行りの感染症のニュースは聴くのもつらい…家でのトレーニングに励みます。